アートフェア東京2015
浅見文紀 -自然と神秘-
2015年3月20日(木)~3月22日(日)
浅見文紀の絵画
1955年に埼玉県秩父市に生まれた浅見文紀は、
四季折々に移り変わる故郷秩父の自然を題材に画きつづけてきた。
辛抱強い客観的な対象観察と節度ある造形的判断によって、
自然の姿が素直に写し出される絵画。
木々や水や光に、静かに語り出させる作風である。
しかし、観る者はいつのまにか自然の内奥へ、その神秘へと導かれる。
まだこんな風景が身近にあるのだろうか。
並び立つ摩天楼の投影のなかで一日を過ごし、
飛び交う電子音が日常となってしまった多くの日本人。
浅見の作品は、そうした私たちに、自然の多様な相貌にもう一度出会い、
都会生活のなかで見失われがちな私たち自身の内なる自然に
気づく機会を与えてくれる。
熟れた柿の実に熟す秋や、雪解けのぬかるみに反映する花のはかなさのように、
親密で懐かしさを誘う四季の情景も浅見の得意とする世界だが、
今回展示の大作では、崇高な自然、生活の雑音の入り込めない冷たく澄んだ
厳しさに画家は向き合っている。
自然の造形の技に圧倒されつつも、絵筆をもって自然と協和し、
声なき自然に自らの歴史を語らせようとする。
謙虚だが、決して対象を静観することに終わらない画家の姿勢がしっかりと伝わってくる。
大木麻利子(美術史家)